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「現代建築のコンテクスチュアリズム入門」
建築の建てられる場所にはコンテクスト/文脈があり、そのコンテクストを読みながら新しい建物を構想するという考え方は、その所与のコンテクストを尊重するにしても、無視するにしても今や多くの設計者にとっては自明のことであろう。都市のコンテクストを読んでいくということは、景観論、保存について考える際も大事な事柄となっている。この本は、1960年代から建築界で議論されてきたコンテクスト概念について、その源泉までさかのぼりながら、現在の動きに到るまで広範囲に渡ってトレースした書である。
著者によると、建築用語としてのコンテクストには二つの水準があるという。一つは、ものである「織物」との類推に基づき、その組織構造に注目するものであり、もう一つは記号である「言語」との類推に基づき、その意味規定力に注目するものであるという。前者は建物あるいは建物群がつくる形のまとまりによる物理的コンテクストに対応するものであり、後者は人々の記憶の中にある建物など「もののかたち」からの連想に基づく文化的コンテクストに対応するものである。
コンテクストを尊重するといっても、その敷地が混乱した場所であれば、尊重するべきものがないという状況もありえる。コーネル・スクールの提唱したコンテクスチュアリズムは、まず理想形があり、それがコンテクストによって変形されるという考えであった。それらを考え合わせると、コンテクストを批判的に読む力、理想形をイメージする力がなければ、コンテクスチュアリズムは無批判の状況受け入れ主義に陥る危険性を秘めているといえる。それらを見きわめていくためにも、本書は良き道しるべとなるであろう。
(「住宅建築」2002年8月号)