「素顔の大建築家たち 弟子の見た巨匠の世界 01+02」
日本の近代建築をつくりあげてきた15人の建築家たちの足跡をたどり直したのが、本書である。所員やスタッフとしてそれぞれの建築家の生の姿に直に接していた弟子と、第三者の目を持った歴史家、研究者による語り、対話によって行われた日本建築家協会主催の連続シンポジウムがそのベースであり、日本の近代建築をもう一度、今の時点で問い直すことを目指している。
ここに登場している前川國男、坂倉順三、吉阪隆正の三人の建築家は、同じル・コルビュジェを師としながら、弟子として接した時期、あるいは本人の資質によって師の異なった面を継承、発展し、それぞれのル・コルビュジェ像を描いてみせた。このことからも分かるように、ここでの弟子による証言は、師匠の全体像をとらえているというよりも、むしろ身近に接した弟子の各人の目を通した個性的な師匠の像と考えるべきであろう。「前川さんの考える建築というのはコルビュジェの建築とはまったく違うんだという、そういう気持ちをもっていたような気がします。」という弟子の証言もそのような一節である。
この本に掲げられている年表をながめると、15人の建築家たちの中で最も早く生まれたのは1888年生まれのアントニン・レーモンドと竹腰健造の二人であり、レーモンドはライトの帝国ホテルの仕事に従事した後の1923年にはすでに自らの事務所を開いている。対して最も若い池辺陽は1920年生まれであり、1944年に坂倉建築研究所に入り実務活動を始めている。最も早くこの世を去ったのは1965年の久米権九郎であり、最も最近が1997年の吉村順三である。ちなみにル・コルビュジェは1887年生まれで、1965年に没している。以上の記述は、すべて西暦によるものであるが、15人の生年はちょうど明治から大正にかけてであり、その活動は早いもので大正から、おそくとも敗戦の年の1945年までには何らかの活動を始め、ほとんどの登場者が昭和で没したことを読み取ると、まさに日本の近代建築をかたちづくってきた建築家たちの物語と言える。
あるものは今日の組織設計事務所の礎を築き、あるものは生前中から組織というより、もう少し個人的な師と弟子との共同作業の中で建築をつくった。建築家というのは何者か、また建築設計という職能をどのように考えるのかという問いを考えるための幅広い内容を含んだ、私的な建築昭和史の書である。
(「住宅建築」2001年8月号)