「リファイン建築へ-建たない時代の建築再利用術」
九州の大分をベースに活動を繰り広げている建築家青木茂が唱える「リファイン建築」とは、既存建物に対して必要な増築を加えつつ建物全体を再編して、旧い建物の再生を図るものである。その再生の方法は、建物の内外装を一旦取り払い構造躯体の状況まで戻し、耐震診断に基づいた補強を施し、内外装や設備を一新するものである。したがって、新旧一体となり内部空間を大胆に変容した新しい建物は一見新築のように見える。しかし一方で旧い建物の構造躯体を利用しているため、完全な建て替えに比べると廃材の量を大幅に少なくすることが可能な環境に配慮した方法であり、また躯体工事がほとんどなく工期も短くできる分、コストは建て替えの新築に比べて半分近くまですることができると言う。
「リファイン建築」のしくみは、既存建物の柱割り、階高、縦動線の位置等は原則そのままであるので、その枠組の中に入る用途と荷重設定であるならば、かなり柔軟な対応を考えることができる。廃校となった小学校体育館を保育園とする計画案からもわかるように、大空間を小空間の集合したものにすることも可能である。逆に小空間の集合をまとめて大空間にすることはむつかしいと考えられる。
青木茂が手がけた「リファイン建築」の生き生きした姿は、特にその公共建築に見ることができる。築25年経た老人福祉センターによる八女市多世代交流館、築30年経た母子センターによる野津原町多世代交流プラザ、築35年経て改築した緒方町役場庁舎、林業研修宿泊施設による宇目町役場庁舎などがそうである。それら「リファイン建築」の基となった旧い建物は歴史的に重要な建物というよりも、何の変哲もない老朽化したRCの建物であり、今までの時代ならば建て替えされていたようなものである。それらをきびしいコスト管理をしつつ「リファイン」して一新している。本人の言葉によれば「B級の建物をA級の建築に」する仕事である。
別府のホテルや旧長崎水族館のプロジェクトのように人々の記憶に残る建物として建築的に遺すべきものがあれば、それらは積極的に保存していこうという柔軟な立場であり、「リファイン」してすべて一新すればよいと考えているわけではない。時間という容れものの中で使われてきた建物を、単に壊すのではなく再生させるという観点で提案を続けてきた地方の建築家の軌跡をたどることができる。
(「住宅建築」2002年2月号)