Essays
This section is available in Japanese only.

批評と夢のあいだ 「植田実の編集現場」(花田佳明 著/ラトルズ)

 1968年5月に雑誌『都市住宅』は創刊された。この本は、その初代編集長として活躍した植田実の編集の現場をさぐる書である。ちょっと不思議なしかけの本である。この本を左から開くと、建築学会博物館で開かれた「『都市住宅』再読・植田実の編集現場」と名づけられた展覧会の記録が、横書きで多くの写真と共にヴィジュアルに登場する。また一方この本を右から開くと、花田佳明による植田実の評伝を縦書きで読むことができる。その縦書き本と横書き本は、本の途中の黄色い謝辞のページで出会うしかけになっている。ヴィジュアル情報とテキストの合体するさまは、まさに異なった二つの世界を自在に行き来する植田実を表わしていると言える。

 『都市住宅』は、都市に建つ住宅を扱うだけの雑誌ではなかった。都市にかかわるもの、住宅にかかわるものはすべて対象となり、それぞれの世界の極北を探求した。都市と住宅は微温的に同居するのではなく、それぞれが最大の強度を持って対峙した。植田実はその引き裂かれたと言ってもよい二つの世界を横断し、その離隔距離を測り、編集して見せたのであった。建築や都市を編集することが、同時に批評となっていたのである。杉浦康平による『都市住宅』のタイトル・ロゴを見ると明朝体の「都市」と、ゴチック体の「住宅」が縦積みになっている。それは、植田が切り取って見せようとした編集のコンセプトを見事に視覚化している。

 花田佳明によるテキストは、そのような植田がどこからやって来たのかを淡々と説きあかしている。それは、ここ数年花田らにより行なわれてきた建築批評原論としての建築ジャーナリズム論の一つの結実と言える。印象論でなく、建築を批評し、伝えるということに対する研究と思考の成果である。住宅が集合し、都市という一つの世界をかたちづくるように、植田実による100冊の『都市住宅』や、100冊の住まい学大系は、1冊1冊が住宅作品のように個別の作品でありながら、それらが集合すると、塚本由晴らによる展覧会で示されたように、独自の全体像をかたちづくっている。同時代を共有した者でなく、花田や塚本など遅れてきた世代が、植田実の世界を距離感を持ちつつ読みとろうとしている。それ故、この本は1960年代から70年代へかけて『都市住宅』の熱い時代を共有した植田実の同時代人によるノスタルジアの書物ではなく、これから建築を考え、つくっていく若者の糧となる書なのである。

(「住宅建築」2005年8月号)

Pocket