Essays
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「都市の記憶-美しいまちへ」( 鈴木博之・増田彰久・小澤英明・オフィスビル総合研究所 著/白揚社)

 明治以降に建てられた洋風のオフィスビル、銀行建築、商業建築は、今や都市の記憶を秘めた歴史的建造物となっている。この本は、その都市の記憶をかたちづくる建物についての本であり、歴史家・鈴木博之によるテキストや写真家・増田彰久による多くの美しい写真等によって構成されている。

 歴史的、文化的な価値を持つ建物を残し活用していくことは、都市に厚みと潤いを加える。この本は、その都市の風景を鑑賞するだけの本ではなく、社会や街そして市民が、その価値を再認識し、それら建築が取り壊されずに残るために何を変えていかなければいけないか、どんな制度を持たなければいけないかまでの考察を含んでいる。

 法律的な仕組みを伴なわない主張は、経済合理性には打ち勝てない。そしてその法律を動かすものは、一人一人の市民の意識である。この美しい多くの写真からなる本は、一人一人の意識を変え、現実を動かしていくための実践の書といえる。

 ここで取り上げられた写真から見えてくるものは、都市の中にあり人々の記憶の中に印象深く残っている建物の多くが銀行建築であり、そこで外観と共に写されているのが銀行の営業室であるということである。今も銀行として営業している建物もあれば、博物館、資料館などに転用されている建物もある。吹き抜け空間になった営業室は、もともとは銀行を訪れる顧客と銀行員が対面する銀行の活動の核となった空間であるが、それは単に営業のためのスペースであるということを超えて、銀行が持たなければいけなかった安心感や権威を表わしているものと言える。そこで求められた空間は、都市の中でも重要な位置を占めていた銀行の立地条件ともあいまって、すぐれた「都市の部屋」を生み出していたと言える。それらは、すぐれてパブリックな性格を持ったものであった。そのような骨格を持った空間であるからこそ、後に博物館や資料館にもなりうるのであろう。

 今や銀行は、コンビニに端末機を置く時代となった。この時代に次の時代の博物館を生み出せるような骨格を持った空間あるいはそれを生み出すことのできる活動は、一体何であろうかと思ってしまう。 今建てられている新しい建物も、やがては古くなる。今古い建物を残せない人々は、未来においても、その時代の古い建物つまり今建てられつつある建物を残してはくれないだろう。

(「住宅建築」2002年8月号)

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