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「永遠の空間 描かれた世界遺産」Array

 ドローイングの世界は、写真や単なる図面とはまた違った独自の豊かな世界である。カール・フリードリヒ・シンケル、オットー・ワグナー、フランク・ロイド・ライトあるいはフランス・ボザールの建築家たちのドローイング集を開いて見ていると、建築としては未完成のアンビルト・プロジェクトはもとより、実現した建築であっても、実現された建築とはまた別のふかい味わいを、ドローイングの中に見てとることができる。

 この「永遠の空間」は、ユネスコにより世界遺産として登録された24の建築のドローイング集である。古今東西にわたる世界遺産の中から24の建築を選び、建築の素養に基づいた正確な着彩ドローイングによって、その魅力を明らかにしている。建築家であり、かつ絵本作家である青山邦彦によるフリーハンド・ドローイングは、鳥瞰的な視点をもつアクソメ図であったり、細部まで描きこまれた断面展開図であったりする。ここでは、その建築の持つ重要な内部空間を表わすために、しばしば屋根を取り払って見せている。それにより、その空間が全体の建築の構成の中で、どのように位置づけられ成り立っているかを見ることができる。それは自由に視点が設定でき、適宜切断することのできるドローイングならではのものであり、写真では得られないものである。例えば有名な二重らせん階段がシャンボール城の全体の中でどこにあり、あるいはイタリア有数の歌劇場であるサンカルロ劇場がナポリ王宮の中でどのような位置を占めているのかがわかる。

 一つの建築には、見開きの2面が割り当てられている。最初の見開き1面は全体像がわかるドローイング、次の見開き1面は細部をクローズアップした部分のドローイングである。後者のドローイングは基本的に全体像のものを拡大トリミングして、人物などを加筆したものあるが、その細部まで描きこまれたドローイングは、拡大トリミングされたものでも正確さと楽しさに満ちたものとなっている。思わず振り返って、前の全体像に戻ることもしばしばである。ここで特筆したいのは、鈴木博之による的確な解説や巻末にまとめられた参考文献とともに、その本全体のレイアウトである。余白を生かした清潔で読みやすいレイアウトは、見開き2面によるリズムにのって、原画の魅力を引き立てている。建築家、歴史家、デザイナーの共同作業による楽しい世界遺産の本によって、古今東西の建築空間への深い探訪をすることができる。

(「住宅建築」2005年2月号)

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